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ミュージカル公演評

ミュージカルロマン
闇の貴公子 源博雅と安倍晴明

 今、なぜか安倍晴明ブームである。平安時代の陰陽師だが、夢枕獏氏がシリーズで小説を発表して大ベストセラーになり、カルト的な人気になっているという。映画、テレビでも次々と取り上げられ、舞台でも劇団☆新感線が同じ題材の『野獣郎見参』を再現するなど各分野で競作となっているが、OSK日本歌劇団が年に一度の大阪公演に選んだ『闇の貴公子-源博雅と安倍晴明-』も夢枕獏の原作をもとに北林佐和子が脚本・演出、伊瑳谷門取の演出・振付によるミュージカル。安倍晴明と蘆屋道満の魔術合戦のイリュージョン効果などレビューならではの趣向を盛り込んだOSKらしい骨太な力作となった。
 舞台は、洋あおい扮する剣の達人・源博雅と那月峻扮する希代の陰陽師・安倍晴明が京都・一条戻り橋で出会うところから始まる。スモークがたかれた舞台中央に二人が対峙するように現れ、そこに鬼たちが奇襲するというダンスシーンに展開していく。このプロローグからなかなかダイナミックでミステリアスな雰囲気に満ちている。舞台上手から下手にかけて天上に伸びるようにかけられた階段の装置が目を射る。あとでこの装置がさまざまな場面で思いがけない効果を生むなかなか凝った装置である。
 博雅と晴明は、その出会いでお互い一目置く存在になる。そして二人は都を暴れまわる鬼たちの背後に播磨の陰陽師・蘆屋道満(大貴誠)が介在していることを突き止める。道満はその魔術をもって時の権力者・藤原道長(英みち)を病に陥れ、都を牛耳ろうとしていた。道満は、さらに鬼の酒呑童子(初瀬みき)の妹・茨木童子(沙月梨乃)を博雅に近づけ誘惑させることによって二人の絆を切り崩しにかかる。
 後半は晴明vs道満の構図となり、壮絶な魔術合戦がくりひろげられる。一瞬の間に変身したり、消えるといったジョニー広瀬によるイリュージョン効果が効いている。なかでもクライマックス、火と水と風に扮したダンサーたちが繰り広げる混然一体となった群舞の迫力は圧倒的。ロックをベースにした音楽(松岡ふみお)も新鮮。衣装の質感も相乗効果をあげている。
 ワキ筋として歌舞伎にもある安倍保名と白狐(葛の葉)との間に生まれたとされる清明の出生の秘密のドラマがからむ。有名なエピソードだけに、挿入したい気持ちは分かるが、このくだりは、本筋とは直接関係がないため、軽くふれるだけでよかったと思われる。せっかくのテンポがここでやや停滞している。
 昨年ダブルトップに就任した洋と那月の『エル・アモール・グランデ〜愛に生き、恋に死す〜』以来の競演2作目で、役の比重はほぼ同等、二人の個性にあわせた役のバランスは前作同様、見事なものがある。
 洋は、醍醐天皇の孫に生まれながら、恵まれない境遇で、文武両道にたけているという好漢、源博雅。その華やかな個性で、雅やかな貴公子ぶりをいかんなく発揮。茨木童子との恋模様でそれがよくにじみ出た。
 一方、安倍晴明役の那月は、メークや髪型に工夫を重ね、希代の陰陽師を体現。歌、演技の実力に加えて、押し出しの大きさが感じられるようになった。これにミステリアスな雰囲気が自然に出ればさらによくなるだろう。
 しかし今回の収穫は蘆屋道満に扮した大貴誠の存在感。もともと線の細い役が得意だった大貴だが、このところ濃い色の役でその存在を徐々にアピール、今回は特にその華やかな個性と太い声が最大限に生き、存在が際立った。
 若手も酒呑童子役の初瀬みき、式神の凩役の波輝一夢と実力派の美形男役スターがはつらつとワキを固め、娘役陣も千爽貴世の蜜虫、茨木童子(茨姫)役の沙月梨乃、葛の葉の若木志帆といずれも適役好演。
 宝塚で言えば宝塚音楽学校にあたる劇団員の養成機関、日本歌劇学校が今春から休校となり、先行きに不安の募るOSKだが、この公演をみている限りにおいては、そんな不安は微塵も感じられない。出演者全員のパワー全開が印象的だった。

藪下 哲司

2001年2月23日→3月4日、上本町・近鉄劇場にて。
企画・制作=OSK日本歌劇団。制作担当=多田邦博、制作協力=児雷也。
原作=夢枕獏「陰陽師」シリーズ(文藝春秋刊、朝日新聞社刊)より
脚本・演出=北林佐和子、演出・振付=伊瑳谷門取、音楽=松岡ふみお、